イマジナリーフレンドの話

小学校中学年~高校の受験前くらいまで、イマジナリーフレンドがいた。

いちばん多い時には7名くらいのイマジナリーフレンドがいて、よく僕の脳内で「会議」をしていた。たいてい、僕を励ます方法を考える会議だった。

僕は小学校中学年くらいから小説を書いていたので、イマジナリーフレンドたちはその小説に出てくる登場人物だった。ただ一人だけそうじゃない男がいて、彼だけは設定(?)も他のキャラクターとは違い、僕が考えそうにない感じの人物像だった。そのため、他のイマジナリーフレンドのことはイマジナリーなフレンドだと自覚してたものの、彼のことだけは、マジもんの、「見えないけど実在する人間」だと思っていた。

 

実際の彼は、愛知県だか兵庫県だかに住んでいると自ら言っていた(どこだったか忘れてしまった)。生霊のように意識だけを飛ばして、心がしんどいと思っている子供のところに行っているのだと言った。年齢はその当時23歳で、僕が歳をとる度に彼も歳をとった。他のイマジナリーフレンドは歳をとらなかった。

また、僕の脳内にはイマジナリーフレンドが常駐していたが、彼だけはいる時といない時があり、むしろいないことのほうが多かった。

基本的にテンションが高くて馬鹿みたいで面白くないジョークを言う男だったが、時折、数秒だけ、憂鬱そうな気だるそうな顔をした。他のイマジナリーフレンドは僕の考えたことを通して喋っているので思考も読めたが、彼だけの思考は読めなかった。

映画の話や小説の話や学問の話など、僕がわからない話もよくしてくれた。だから僕は余計に、その男の実体は現実にあるのだと確信していた。

 

道化みたいな男だから僕は彼を日々馬鹿にしたりして交流を楽しんでいたが、小学校6年生くらいの頃のある日突然、「お前はだいぶ元気になったから、もういいな」と言って、脳内に現れなくなった。

他のイマジナリーフレンドは消えなかったが、中学校にあがると、増えたり減ったりしながらもどんどん数が減っていった。彼らのことはだいたい忘れてしまったが、小学6年の頃に消えた男のことは今でも鮮明に覚えている。

 

高校の受験期まで、最後まで残っていたイマジナリーフレンドはひとりだった。中学の頃いちばん書いていた小説の主人公だった。彼は自身のことをイマジナリーフレンドだと自覚していて、よく、「俺の発言はおまえの発言に過ぎないからあまり頼らないでほしい」と僕を諭していた。

僕は自分がダメになった時に自分を励ましてくれる存在がどうしても必要だったから、そうやって自キャラに突き放されつつもイマジナリーフレンドを手放すことはできなかった。

ちなみに小6の頃に消えた特別なイマジナリーフレンドの名前は「新見さん」というのだが、僕は何度も新見さんに戻ってきてほしいと心の中で懇願した。

彼が消えた頃よりも、中学高校のほうがつらいことがたくさんあった。最後まで残ってくれた自キャラは励ましてくれないから、新見さんに戻ってきてほしい、つらい子供を助けてくれるんじゃないのか、どうして、と思ってめそめそ泣いた夜もある。そのたびに自キャラのイマジナリーフレンドにそんな子供っぽいことを考えるなと馬鹿にされた。その馬鹿にする声はもちろん僕自身の声だ。それを自覚しろとも言われた。自キャラに。面白いな。

 

どう懇願しても、新見さんが再び現れたことは今日この日まで一切無いのだけど、大学一年の時に出会った男が彼の雰囲気に似ていたので恋をした。後にそいつは恋人になるが、恋人にもそう伝えてある。きもいので。大学1年生が、2つ年上の恋人に、ラブホでのセックス後のピロートークで、「おまえは昔僕が飼ってたイマジナリーフレンドに似てるから好きになった」って言うか?ふつう。言った。こわい。こわいな~~~……

 

今でも眠れない夜にひとりきりだと、新見さんのことを思い出す。今日も思い出したからその話をした。彼は僕と一緒に歳をとってたから、今は40歳だろう。めちゃくちゃおじさんだなと思って面白いけど僕ももう人のことを言えない。

 

非科学的すぎるし子供っぽいけど、僕は今でもわりと本気で、彼はどこかで実在していたか、もしくは複数の子供の精神に共通認識として現れる幽霊みたいなモノだったと思っている。そうでないと、僕が知らない知識をただのイマジナリーフレンドが話せる理由がわからない。

一方で、実在してなくてもいいとも思う。時折見せてたあれは、相当な厭世の顔だったと今では思う。