僕と映画と父の話

ジム・キャリーの引退の話は、思ってた以上に衝撃を受けた。家にもいくつか彼の主演映画のDVDがあるくらいには好きだ。彼にはヨボヨボになるまで俳優でいてもらって、映画の撮影の最中にくたばってほしかった。まあ、そんなファンに人生を搾取されることを願われるのは可哀想だ。彼が望むとおりに静かな生活を送ってほしい。

 

話は変わるが、僕の父は映画が好きだった。休みの日はいつもテレビに映画を映していた。だから僕は映画が嫌いだった。友達は誰も映画を見ないので、映画なんか見ても友達との会話のネタにならないから何の糧にもならないと思った。父が映画を流している時間に、アニメのビデオが見たかった。僕が小学生の頃はあまり娯楽もないので、父が映画を流している間はポケモンのゲームをするか、それにも飽きたら仕方なく父の横で映画を見るしかなかった。ほとんどポケモンをしていたので見てなかったが。

そんなガキでも「これは面白かったな」と思える映画がいくつかあった。ジュラシックパークと、ジュマンジタイタニック、それからマスクとか。マスクは本当に面白いと思った。よく家族でレンタルビデオ屋にビデオを借りに行き、父は映画を借り、僕はアニメと特撮ばっかり借りてたが、初めて洋画を自ら進んで借りたのがマスクだった。初めてテレビで見て以降、ビデオでも何回も見た。小学生の頃にハマってた時期以降は全く見てないのだが、今でもいくつかのシーンを思い出せる。

マスク2を借りた時に、主演の男が変わっていたので子供ながらに面白くないと思った。マスクを面白いと思ったのはジム・キャリーだったからかもしれない。単純にマスク2が駄作だったかもしれんが。

 

思い出すきっかけはジム・キャリーだったが、ジム・キャリーと僕の思い出を書きたいんではない。僕は、ベン・スティラーを勝手にポスト・ジム・キャリーだと思っているので、ジム・キャリーの思い出を振り返っている時にベン・スティラーの思い出もついてきた。

僕は大学に入るまでずっと映画が嫌いだったので、アニメか特撮の映画を見る時か、好きだった女の子に誘われた時だけ映画館に行った。ハリーポッターは原作が好きだったが、ハリーポッターですら映画で見るのはダルいと思った。まあ今でもハリーポッターの映画は言うほど優秀なデキではないと個人的に思っているが。それはそれとして。

高校生の時に、何がきっかけだったか本当に忘れてしまったけど、ひとりで映画を見に行くことにした。受験生の頃だった気がするから、受験の面接時に「好きな小説は?」みたいな感じで「最近見た映画は?」と聞かれるかもしれないと思ったんだったか。面接練習でそういう質問があったんだったか。映画を見ないので、その時に映画館で放映してたもので、面白そうだと思うものを見ることにした。さすがにアニメ映画ではダメだと思ったのか、当時興味もなかったベン・スティラーの「ナイトミュージアム」を見ることにした。

映画館まで父に車で送ってほしかったので、ひとりで映画を見に行く旨を伝えると、何故か父も一緒にみたいと言い出した。アニメ映画を見る時はいつも母と一緒だったので、父と映画館に行くのは初めてだった。父は態度に出さないようにしてたかもしれないが、あからさまに嬉しそうだった。高校生にもなった自分が、父と一緒に洋画を見てあげることで父をウキウキさせてるんだと思うと、ものすごく気恥ずかしかった。

最も気まずいのは、映画が始まる前の、CMもまだの、劇場の椅子に座って館内が暗くなるのを待っている間だった。父は陰気ではないがおしゃべりな人ではないし、僕は陰気だしおしゃべりな人間ではなかった。最近学校はどうだ友達はどうこうみたいな話は、行きの車の中で話尽くしてしまっていたので、映画館で並んで座った途端、お互い無言になった。

父との無言が耐えきれなかったので、僕は、面白いかなこの映画、みたいなことを言った。父も面白そうだと思ったから着いてきたんじゃないのか。「父さんは、コレ見たかったの?」と聞いたら、別にと言われた。「なんで博物館の展示物が動くの?」とも言われた。知らないよ。今から見るのに。父のほうからも、「なんでコレ見たいと思ったの?」と同じような質問を返されて、僕も「別に理由はないけど……」と言った。

当のナイトミュージアムは、正直、かなり微妙だと思った。いや、だいぶまろやかに言ったな。ハッキリ言うとそんなに面白くない。しかも父と子の映画だった。僕は少し、舌を噛んで死にたい気持ちになった。高校生にして父と初めて映画館で観た映画が父と子の話なのはキツすぎる。前情報をもう少し得るべきだった。

一応、自分の感想は伏せて父に感想を求めると「うーん……」みたいなことを言って、違う話題を差し出されたから父的にもあまり面白くないと思ったのか、父も、映画が父と子の物語だったことにどう触れるのか悩んだのか。触れないでくれてよかったと思う。父と映画館で映画を見たのは、今のところ、それ以降はない。

 

あんまり面白くなかったけど、ナイトミュージアムにはそういう思い出があるので、のちにナイトミュージアム2も見た。2もあんまり面白くなかった。ベン・スティラー映画で言うと、そのまたのちに、LIFE!という映画を見て、あんまり面白くないと思った。そのまたまたのちにズーランダーという映画を見て、ようやくベン・スティラーへの評価が好転する。ベン・スティラーの出ている映画は、そんなに面白くないと思ってもなんか見てしまう。ベン・スティラーをジャケットに見かける度に、父と映画を見た時のことが脳裏に浮かぶので、手に取ってしまうのだ。

ジム・キャリーが引退してしまうなら、ベン・スティラージム・キャリー的なものを求めたいと思ってベン・スティラーのことを考えていたのだけど、こうして思い返せば結構毛色が違うな。ズーランダーのベン・スティラーの印象が強すぎた。やっぱりジム・キャリーには引退しないでほしい。脚本によってはまだやる可能性はあると言っていたので、その時こそ、ヨボヨボの老体で出演して、撮影現場で死んでほしい。