七夕に書こうと思っていたこと

 

七夕に、久しぶりにこっちのブログに書こうと思っていたことがある。

書こうと思いつつも結局は書かなかった。書くべきじゃない気がしたからだったのだけど、いま暇なのでやっぱり書こうと思う。

 

度々いろんなところで出す話題だが、高校時代に付き合っていた男の話だ。

愛していた瞬間は少しもなかったのだけど、僕の人生にかなり強い影響を残しているのでなかなか忘れられない。良い思い出として消化されないものはこびりつく。今は配偶者がいるので、悪い思い出と言えども度々過去の恋人の話題を出すのは申し訳ない気持ちがあるし(伴侶もこのブログを読みうる)、今回ここに書こうと思ったことは悪いことだけというわけでもないものだから、書くことをためらっていた。

でもまあ書く。

 

昔付き合っていた男とは、七夕の日に付き合い始めた。だから七夕になると毎年なんとなく思い出してしまう。

例年は、思い出したくもない思い出に嫌気がさして思い出した瞬間に別のことを考えるよう努めていた。しかし、彼と別れて12年ほど経って、ようやく、七夕の日に彼のことを思い出しても嫌な感情ではない感情がわいた。僕の憂鬱はあの時から始まっている気もするんだが、あれ以来だと、今が1番メンタルが安定しているからだと思う。

 

全国的にどうなのかはわからないが、僕の住んでいる地域では七夕はだいたい雨が降る。

彼と付き合い始めた日は七夕で、小雨が降っていた。

 

彼は小学校6年生の頃、卒業式が近いときに一度僕に告白をしている。そこそこ遊ぶ友人だった。

僕はこの時、自分の性自認に悩んでいる頃だった。低学年の頃から同性の友人よりも異性の友人が多く、だけど恋愛として好きになるのは同性だった。同性愛という言葉も知っているし、自分はそうなのだと思っていたが、小学5年生の時に、うっかり異性に告白して振られてからかわれて逆恨みしていじめたりいじめられたりして、「異性との恋愛はうんざりだ一生涯異性間恋愛はしない」と思っていたので、自分は、同性愛者というよりは異性間恋愛から逃げたいだけでは?という疑いも自分自身にあった。

 

彼はそういう時期に僕に告白をした。僕は以前から、なんとなく彼も同性愛者だろうと思っていた。彼に異様にベッタリとくっついていつも一緒にいる男子がいて、二人とも発達障害の気があったので(現に、彼のその友人はいわゆる仲良し学級のほうがメイン学級の子だった)、カースト上位の男子らから、二人まとめてホモだのなんだのからかわれ、いじめられていた。

僕は、仲良し学級のほうの子とはあまり会話をしたことがなかったが、彼・S氏とは友人だった。しかし特別ずば抜けて親しいわけでもなく……。彼らがいじめられているのは気の毒だと思いつつ、あまり助けたいという気持ちもなかった。

 

だから、小6の時に彼に告白された時はいろんな意味で驚いた。そんなにまで親しくないのに、という理由の他に、S氏と仲良し学級のあの子は、からかいの的になってはいるが僕には本当に好き同士だと見えていたのもあった。性自認に混乱してる期の僕は、「自分自身の問題で」と言ってお付き合いを断りつつ、興味100%の気持ちで何故僕を好きなのか尋ねた。

「優しくて、俺みたいなのと“普通”に接してくれるから」と言った。

そうか、ありがとう。でも「友達」だから「普通」にしてただけだよ。と正直に言った。彼は納得していた。

 

ちなみにこの年の卒業文集には、「クラスのみんなにメッセージ♡」というページがある。一人一つの小さな枠に、だいたい誰もが「みんなありがとう!」みたいな一言やふざけたギャグみたいなのを書いている中、例の仲良し学級の男子が、S氏を名指しで、「俺みたいなのと、普通に遊んでくれて、優しくしてくれて、ありがとう」と書いている。

卒業式後にもらった文集を、家に帰ってすぐ読んだ時に、このコメントを見てなんとなく複雑な心境になったものだった。

 

高校2年の七夕の日に、S氏はもう一度僕に告白した。小学校を卒業してからは中学校も別々になったし、携帯電話を手に入れたのも高校1年の頃からだったので、その日まで彼とは一切連絡をとっていなかったのに、突然だった。家も連絡先も教えたことはなかったが、友人を辿って辿って僕の携帯電話を手に入れ、「今やしちの家の前に来ている。会えないか」と連絡があった。携帯電話はまだしも、再度言うが家の場所を教えたことはない。今思うとこの時からストーカーの気質はあったんだなと思う。まあいいけど。

 

小雨が降っていたのに傘もささずに来ていた。今年の七夕は日曜だったが、その年の七夕も休日だった。なんとなく詳細まで覚えてしまっている。

家の前で、なんの脈絡もなく再告白された。僕はこの時も性指向に悩んでいた。それまでの人生で一番好きだと思ったひとがいたのだけど、相手がノンケの同性なので苦しいと思っている時期だった。

S氏に告白されたのは、率直に言うと都合がいいと思った。彼のことは全く恋愛的に好きではなかったが、この先の生涯、男と付き合えそうな機会はもう訪れないだろうと思ったこと、今好きなひとのことを諦めたいと思ったこと、その両方の気持ちが強かったし、二度にわたって、しかも最初の告白の後から数年間なんの連絡もとってなかったのにずっと自分のことを好きでいてくれた人なんだから、なんか上手くやっていけるだろうと思ったので、付き合うことを承諾した。

 

何の話かはわからんが家の前で話をするものだと思って僕も傘を持たないで出てきたのだったけど、「散歩しよう」と言われて、小雨の中2人で濡れながら歩いた。

S氏が、「七夕なのに雨だね」と言った。僕は当時地学オタクで気象のことにも関心があったので、「近年の七夕はだいたい毎年雨だよ」と即答した。

彼は会わない間にロマンチックな男になっていて、告白の日を七夕に設定したのはわざとそうしたらしかった。彼は、「雨が降っていると織姫と彦星は毎年会えないんじゃないの」と言ったあとに「せっかく七夕の日に付き合えたらいいなと思ったのに、不吉だな」と言っていた。僕は、「めちゃくちゃネガティブだなこいつ。天気のことでいちいちそんなへこむかよめんどくせえな」と思いつつ、「でも雨が降っているのは地球上までであって、織姫と彦星は雲より上にいるから、会えてるんじゃないの」と慰めてあげた。

「やしちは昔と変わらず優しい」と褒められた。僕は、めんどくさい男だなと思ったことを反省した。

 

その後、2月くらいに色々あって別れて色々あって色々あったんだけど、S氏と付き合っていて1番楽しかったのはその日だった。だから雨の七夕のたびに思い出す。思い出しては無かったことにしたいと努める。でも今年は、もう少しニュートラルな気持ちであの年の七夕のことを思い出せた。

あの後は、僕に恋愛感情がないあまりに、彼に随分悪い態度をとり続けてしまった。別れたあとのことは許す気にはなれないが、別れるに至るまでのことはほぼほぼ僕が全部悪かった。そもそも付き合うべきでもなかったなと思う。

 

雨にあたることの多い七夕に告白してしまったのは不吉だ、と言って落ち込んでいたS氏のことを、今年は、やけにハッキリ思い出したのだった。まったくその通りだったな。

去年あたりに、知人経由で今は随分歳下の女の子と付き合っているという噂を聞いた。コントロールしやすい人間と付き合うことにしたんだな、お前にはそれが正解だよと噂を聞いた当時は意地悪なことを思ったが、小学生の頃から、ネガティブで優しさに飢えていて孤独で世の中に強い恨みを持っていた彼が、今は幸せになれていたらいいと烏滸がましくも思う。僕がいま幸せだからそう思ってやれるのだろう。いやまじで烏滸がましいな。

 

僕は、昔から全然優しくないよ。